どこへ消えたの?

何が一番怖い?

死んだお兄様。
彼の顔。
とても安らかで、とても怖かった。

ねぇ、何でそんな安らかなの。
何に安心したの。
彼が遂げたかったものは遂げることができたのかしら?

小さくため息をつく私。

苦しいときも悲しいときも・・・。

彼のことが好きではなかったし、
どちらかといえば嫌いであったけれど、
こんなに恐怖を味わったのは、
これが初めてだ。

不条理さ・・・。不条理だ。

彼は何だったの?
私にとって何だったのだろう?
どういう存在だった?
どう、私は位置づけていた?

彼は私をどういうふうに位置づけていた?
どう思っていた?

・・・

あんな安らかな死に顔をできるようなやつだった?
誰が彼を赦したわけ?

あの怒りは、
あの衝動は、
あの不遜さ、
あの傲慢さ、
あの自信は、
あの焦燥は、
あの憎悪は、
あの嘆きは、
あの妬みは、
あの狂気は、

どこへ消えてしまったのだろう?

誰がそれを消したのだろう。
誰が、
誰が、
誰が、
私のものだったあれを持っていってしまったのだろう。

彼の怒りも、憎しみも、苦しみも、そして優しさも、
全て全て私のものだと思っていたのに。

私の全てをかけても敵わない対象。
私の全てをかけても適わない対象。
私の全てをかけても叶わない対象。

私が、彼を殺してあげるって決めていたのに。

・・・

あぁ、
そうか、
思い出した、
あの人か。

私は、
勘違いを、
していたわけね。

ねぇ、
彼の代わりに、
あの人を殺してもいいかな。
彼は望んでいるかしら?

彼の
ミームじゃなくて
意志じゃなくて
意思じゃなくて
遺志は、
私が継いでしまってもいいのかしら。


一瞬
心によぎる
血染めの女の人。


幼いころ出合ったあの人。
彼女を何故か思い出した。

あの人に会いたい。

そして、私が継げるかどうか判断してもらおう。
自分よりあの人の方が信頼できそうだから。